1-2フィニッシュを奪ったチームオーダー!?
今年の開幕戦オーストラリアGPは、チームオーダーが勝負の行方を大きく左右した。
多くのドライバーがインターミディエイトタイヤでスタートした決勝レース、スタート直後に3番手に後退したオスカー・ピアストリ(マクラーレン)がマックス・フェルスタッペン(レッドブル)を抜き返した17周目から、マクラーレンが1-2体制を築いてレース中盤に突入する。
28周目にはその差は1秒を切り、ここからマクラーレン勢による優勝争いが繰り広げられるかと思われたが、チームはふたりのドライバーにポジションをキープするようチームオーダーを出す。マクラーレンの無線でも、それは確認できている。以下がその無線だ。

コンペティティブなクルマと、拮抗した能力のふたりのドライバーが存在すれば、いつの時代もチームは両者の扱いに頭を抱え、チームオーダー発動の判断に悩まされるのがF1の常といえる
<28周目>0秒772差
ノリス 1分29秒097
ピアストリ 1分28秒629
ウィル・ジョセフ(ノリスのレースエンジニア):前方にベアマンとオコンがいる。彼らには青旗が振られている
※この直後、ノリスとピアストリがベアマンを追い抜く
<29周目>0秒608差
ノリス 1分28秒357
ピアストリ 1分28秒188
ジョセフ:もうすぐオコンにブルーフラッグを出される。今はオスカーのことは心配するな。バックマーカーを慎重にオーバーテイクしていってくれ
トム・スタラード(ピアストリのレースエンジニア):オスカー、ポジションをキープしてくれ。もうすぐドライコンディションに切り替わる。 バックマーカーを抜き、ドライになるまではこのままのポジションだ。 次のバックマーカーはオコンだ
ピアストリ:分かった。僕の方が速いけどね
※この直後、ノリスとピアストリがオコンを周回後れにする

グリッド上でピアストリと話す担当エンジニアのトム・スタラード。2010年よりマクラーレン入り。それ以前はローイング競技の選手として活躍していた異色の経歴の持ち主で、五輪メダリストでもある
<30周目>0秒902差
ノリス 1分28秒032
ピアストリ 1分28秒331
ジョセフ:ランド、雨の最新情報だ。ここから43周目までは雨は降らない。ただし、その後降る可能性もある。今のタイヤの状態は?
ノリス:ああ、(今履いているインターミディエイト)タイヤはダメだ。替えるなら(ドライの)ミディアムだと思う
ピアストリ:もうバックマーカーを抜いたけど、まだ順位をキープしなくちゃいけない?
スタラード:そうだ。今のところはそのままのポジションをキープしてくれ。ペースを教えてほしい
ピアストリ:どうして?
スタラード:雨がまた降り出しているようだからだ
<31周目>1秒123差
ノリス 1分27秒695
ピアストリ 1分27秒916
スタラード:ここから45周目までは雨は降らない見込みだが、その後、また雨になる可能性もある。今のコース状況は?
ピアストリ:コースは乾いているけど、雨が降ればインターミディエイトが必要になるかもしれない
スタラード:残り20周でフェルスタッペンがペースを上げて、近づいてくる
読めない天候ゆえのリスク回避
なぜ、マクラーレンはチームオーダーを出したのか──その理由をチーム代表のアンドレア・ステラは次のように説明する。
「我々は天気予報の最新情報を随時入手していたのだが、あの時点では路面状況がどうなるのか不透明だった。路面はまだ乾いておらず、雨も完全に上がってはいなかった。そのような状況ではインターミディエイトを少しでも労わる必要がある。同時に周回後れにも近づきつつあったので、ドライバー同士の戦いを一時休止させる必要があった」
天候が読めない状況では、ピットストップのロスは極力減らしたいため、今履いているインターミディエイトタイヤはできるだけ長くもたせたい。チームオーダーを出すことで、タイヤを温存させたかったのだろう。
また路面が乾いていく状況では走行ラインが1本しかなくなる。そのような状況で周回後れを抜くのはリスクを伴う。チームオーダーを出すことで、ドライバーに無理をさせないようにしたと考えられる。
その後、雨は止み、路面も乾いてきた。さらにピアストリが31周目と32周目に立て続けにミスし、両者の差が3.4秒に広がったことで、マクラーレンはふたりのドライバーに出していたチームオーダーを解除する。

代表のステラは、過去にレースエンジニアとしてミハエル・シューマッハーを担当していた経験を持つ。それだけにチームオーダーの重要性は誰よりも理解している人物のひとりだ
<32周目>2秒702差
ノリス 1分27秒800
ピアストリ 1分29秒379
スタラード:準備ができたら天候情報を知らせる。それとレースの最新情報もある
ピアストリ:OK、今、ピットストレートだよ
スタラード:もうレースを始めてもいいぞ。(パパイヤ)ルールは分かっているな。ただ43周目からまた雨が降ってくる可能性があるからな
<33周目>3秒433差
ノリス 1分27秒495
ピアストリ 1分29秒226
ノリス:(インターミディエイト)タイヤがかなりすり減ってスリックに近い状態になっている。ウエットパッチ(濡れた路面)に乗ったらおしまいだ
ジョセフ:了解
ノリス:雨が降ったら100%終わりだ
ジョセフ:了解。45周目までは雨は降らない見込みだ。走行ラインはかなり乾いているのが見える
ノリス:だったら、ドライタイヤの方が適したコンディションかもしれない
ジョセフ:分かった。また状況を教えてくれ
ノリス:間違いなくドライタイヤで走れると思う
<34周目>8秒198差
ノリス 2分02秒273
ピアストリ 2分07秒025
ジョセフ:よし、オスカーとの差は3.4秒だ。君たちは今、お互いに自由にレースができる状態だ
1-2できなかった印象だけが残ってしまう
この直後、フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)がクラッシュしてセーフティーカーが導入されると、マクラーレンは2台をピットインさせ、ドライタイヤに交換。42周目にレースが再開されると、マクラーレン勢による優勝争いも始まった。
ところが、その直後に再び雨が降り出し、ドライタイヤで優勝争いしていたマクラーレンはピットインをためらい、その結果、44周目に2台そろってコースアウト。ノリスはすぐにコースへ復帰し、ピットインしてタイヤ交換できたのに対し、ピアストリはランオフエリアからなかなか抜け出せずに15番手まで大きく後退。ここでふたりの勝負は決した。
その後、タイヤ交換している間に一時トップの座を譲ったノリスだが、ステイアウトしていたドライバーたちがピットストップしたことで再びトップに返り咲き、最終的にノリスが優勝した。
予想どおり開幕戦はマクラーレンが制した。だが、今年のオーストラリアGPはあれだけの速さがありながら、マクラーレンが1-2フィニッシュできなかった印象の方が強く残ってしまった。
その要因がチームオーダーだったように思うのは私だけだろうか?
いつの時代もチームオーダーにまつわる賛否はこのスポーツの見どころのひとつではある。その意味でも果たしてマクラーレンはチームオーダーを出すべきだったのか、あるいはその必要はなかったのか、その答えはシーズンが進むにつれて明確になってくるはずだ。

MCL39には確実に1-2できる力があっただけに、ノリスの勝利だけに終わった開幕戦の結果は、このあとのシーズンのゆくえにどう影響をおよぼすか
すでに登録済みの方は こちら