プレシーズンテストで垣間見えた亀裂
レッドブルに暗雲!?
わずか3日間しかないため、最近のF1ではどのチームもいわゆる三味線を引く余裕はなくなった。したがって、バーレーンで行われたプレシーズンテストのパフォーマンスは各マシン、各ドライバーの現状を示していると考えていい。2月26日から3日間行われたテストで20人のドライバーたちが刻んだ周回数は合計3896ラップ。そこから見えてきた3つの事実を明らかにするとともに、2025年シーズンの趨勢をあぶりだす。
▼テスト検証1)2人のチャンピオンは明暗分かれる
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17秒差の優勝予測が成り立つマクラーレン
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ローソンのセット変更が仇となったレッドブル
2024年にタイトルを分かち合った2人のドライバー。レッドブルのマックス・フェルスタッペンはドライバーズチャンピオンを防衛し、ランド・ノリスはマクラーレンに1998年以来26年ぶりとなるコンストラクターズタイトルをもたらす原動力となった。
今回のプレシーズンテストでは、フェルスタッペンとノリス、そして2人が所属するレッドブルとマクラーレンのパフォーマンスがまずは注目された。しかし、両者のテストは大きく明暗が分かれた。
まずマクラーレンから行こう。3日間総合でのベストタイムだけを見ると、マクラーレンはオスカー・ピアストリが8位、ノリスは17位だった。しかし、これはマクラーレンのテストプログラムは2人ともフルレースシミュレーションが中心だったためだ。では、そのレースシミュレーションはどうだったのか? マクラーレンは2日目にノリスが、3日目にピアストリがそれぞれレースシミュレーションを行なったが。両日とも、パパイヤカラーのマシンはライバル勢に平均で0.3秒以上速いペースでバーレーンGPのレースディスタンスを走破していた。もし、この事実が間違いではなく、テストから開幕までの力関係も変わらない場合、マクラーレンは2番手以下に約17秒の差をつけて優勝することになる。それほどバーレーンでMCL39が他を圧倒していた。
対照的にレッドブルは2024年後半戦の不調から抜け出せないようだ。それを物語るのは、周回数の少なさだ。レッドブルが3日間で走り込んだラップは合計304周。これは10チーム中、最も少ない。その主な理由は2日目ラジエターの水漏れが発生し、その修復に時間が費やされたためだった。
ちなみに水漏れはテレメトリーのデータですぐに発見され、直後にドライバーにエンジンを保護するモードで走行する無線で指示が飛んでいたことから、エンジンには問題なく、交換することなく3日間走行することができたとホンダ・レーシング(HRC)の関係者は話している。
問題は水漏れを修復した後に行われたリアム・ローソンの短めのレースシミュレーションだった。この日にレースシミュレーションを行なったノリスとメルセデスのアンドレア・キミ・アントネッリに比べて、平均で約0.9秒遅かった。さらにこの走行ではチームがフェルスタッペンのセットアップで走るよう提案したものの、最終的にそのセットアップをローソンが変更したため、セットアップの方向性がまとまらず、最終日のフェルスタッペンの走行プランにも影響を及ぼしてしまったことだ。
もっともレッドブルは最終日に新しいノーズ&フロントウイングを持ち込み、フェルスタッペンが3日目の2番手となるタイムをマークできたことはポジティブな結果だった。ただし、それはフェルスタッペンだから成せる技で、そのフェルスタッペンですら、最後までスピンを喫するほど、RB21はじゃじゃ馬だった。そのため、レッドブルは3日目の午後に入ってもセットアップがまとまらなかったようだ。そのような状況の中で今後もローソンがフェルスタッペンとは異なるセットアップで走るような事態となれば、チームはまとまらずに昨年のセルジオ・ペレスの二の舞になりかねないという不安要素をはらんだまま、開幕戦に臨む。
▼テスト検証2)ハミルトンが加入した跳ね馬と抜けたシルバーアロー
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ノリスに0.5秒後れのルクレール
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「ゼロ・ポッド」以降初首位にラッセルの手応え
2025年シーズンの見どころのひとつに、7回王者のルイス・ハミルトンがメルセデスからフェラーリに移籍したことが挙げられる。ハミルトンの選択が正しかったのかどうかは、おそらくシーズンが始まってもしばらくは答えが出ないだろう。なぜなら、今回の移籍は今年というよりも、レギュレーションが大きく変更される2026年以降を見据えたものだと考えられるからだ。
とはいえ、ミハエル・シューマッハと並んで史上最多タイとなる7回ものタイトルを獲得しているハミルトンのドライバーとしての「引き出し」の多さは当代一。序盤こそ、チームメートのシャルル・ルクレールに後れをとるかもしれないが、2007年のフェルナンド・アロンソや、2013年のニコ・ロズベルグのように、すぐに追いつき、追い越すことだろう。
それでも、そのルクレールがレースシミュレーションでノリスから平均約0.5秒遅れていたことを考えると、チームメートのルクレールに勝つことはできても、今シーズン中にマクラーレンに追いつくことはないだろう。しかも、レースシミュレーションでは第2スティントでフェラーリのほうが軟らかいC2を履き、ノリスはC1だったにも関わらず、このスティントで平均約0.3秒ノリスからちぎられていた。
とはいえ、フェラーリは今年フロントサスペンションをプッシュロッド式から、マクラーレンやレッドブルと同じフルロッド式に変更してきただけに、伸び代という面ではトップチームの中では最も大きいはず。シーズン後半戦に期待したい。
ハミルトンが抜けたメルセデスは、3日目にジョージ・ラッセルがその日のトップタイムをマークして、テストを締めた。メルセデスは現在のグラウンドエフェクトカーが導入され、「ゼロ・ポッド」と呼ばれる奇抜なサイドポンツーンを採用してきた2022年以降、バーレーンで行われたテストでトップに立ったのは、今回が初めて。間違いなく、状態は良さそうだ。
ハミルトンに代わって加入してきたアントネッリが、いきなりハミルトンの穴を埋めることはないだろう。ただし、2日目のレースシミュレーションでは同じタイミングでコース上を走っていたルクレールとほぼ互角のペースだったことを考えると、メルセデスのマシンが相当に高いポテンシャルを持つのか、アントネッリは私たちが想像している以上に才能があるのかどちらか。いずれにしても、メルセデスにとってテストは成功裡に終わったと言っていいだろう。
▼テスト検証3)中団トップはウイリアムズとアルピーヌ
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角田は厳しい5年目か
フェラーリから今年移籍してきたカルロス・サインツが2日目に記録した1分29秒348によって、3日間の総合トップタイムを手にしたウイリアムズ。燃料搭載量や装着していたタイヤのコンパウンドが異なるテストでのトップタイムは、時としてそれほど重要な意味は持たない。とはいえ、サインツがトップタイムを記録したときに履いていたのはC3。同じ日の2番手のハミルトンの1分29秒379も、3番手のルクレールの1分29秒431もC3タイヤだったことを考えると、少なくともコンパウンドに関するアドバンテージはなかった。
またこのタイムは、同じC3タイヤで行われた昨年のバーレーンGPの予選で、ウイリアムズが記録したチームのベストラップだった1分30秒221を0.842秒上回っていることを考えると、ウイリアムズの今年マシンFW47が昨年から大きく進化していることは間違いない。
ウイリアムズ以上に好調だったのがアルピーヌだろう。3日目にピエール・ガスリーが叩き出した1分30秒040はその日の5番手だったが、それはその日の上位4人がコースコンディションが良くなったセッション終盤に自己ベストを更新したからにほかならない。したがって、今年のアルピーヌのA525には3日間総合9位以上のポテンシャルが秘められている。かつてフェラーリでキミ・ライコネンのレースエンジニアを務めていたデイブ・グリーンウッドがレーシングディレクターとして加わったことも好材料だ。
今年5年目のシーズンを迎える角田裕毅(レーシング・ブルズ)は、最終日にようやくパフォーマンスランを行なったが、ベストタイムはガスリーからコンマ5秒離されてしまった。
小松礼雄代表率いるハースは、今年もロングラン中心のプログラムを粛々とこなしていた。最終日にカウルが剥がれるというトラブルに見舞われて、今年初のフル参戦となるオリバー・ベアマンがメルボルンへ向けた予選シミュレーションを完結できなかったのは痛かった。ただし、ロングランのペースでは中団グループのトップになるであろうウイリアムズとアルピーヌと遜色のないペースを見せていた。
期待はずれな結果となったのが、アストンマーティンとキック・ザウバーの2チーム。前任者のダン・ファロウズが残したAMR25は、バーレーンのテストで一度も速さを見せることはなかった。キック・ザウバーのマシンはサスペンションが硬すぎてコーナーリングで不安定となり、3日間の総合順位で18位と19位に終わった。
▼結論 1強 1弱 中団は4+4に分かれる
これらの検証結果から見えてくる2025年シーズンの勢力図で、まず明確なことはマクラーレンがドライバーズ選手権とコンストラクターズ選手権で最有力候補だということ。そして、キック・ザウバーがテールエンダーになりそうだ。
マクラーレンに続く集団を形成するのは、フェラーリ、メルセデス、レッドブル、アルピーヌあたりか。このトップ5チームに続くのが、ウイリアムズ、ハース、レーシング・ブルズ、アストンマーティンか。
マクラーレン、フェラーリ、メルセデス、レッドブル、アルピーヌの5チームだけで入賞圏内となる上位10台が埋まりそうだが、この中に今年フル参戦1年目のドライバーが3人いることを忘れてはならない。メルセデスのアントネッリ、レッドブルのローソン、アルピーヌのジャック・ドゥーハンだ。角田がポイントを獲得するには、その3人を上回る走りが求められる。
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